「源氏物語 花宴」(紫式部)

平安の恋は「顔を見ない」恋

「源氏物語 花宴」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

花見酒に酔った源氏は、
月明かりに誘われ、
弘徽殿に忍び込む。
そこで歌を口ずさんでいる
女・朧月夜と出会った源氏は、
恋情をかき立てられて結ばれる。
慌ただしく夜が明け、
源氏は女の名も聞き出せぬまま、
扇を交換して別れる…。

それにしても平安の恋は
「顔を見ない」恋であることが
よく分かります。
源氏は朧月夜と一夜を過ごすのですが、
名前を聞き出せなかった以前に、
顔すらしっかり確認できて
いなかったのです
(当時の照明事情に鑑みるに、
夜の室内はほぼ暗闇と推察できます)。

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源氏は、それ以前にも
目当ての女性・空蝉と間違えて
その継娘・軒端の荻と
契りを交わしてしまっています。
また末摘花に対しては
その醜貌を知らずに
源氏は逢瀬を重ねていました。
名前も顔も知らない相手と交わり、
それでいて一夜限りではなく、
もう一度逢いたいと願う。
その感覚は何から生じるのか?

アプローチに対する反応、
肌と肌の感触、
わずかに洩らしたであろう声。
暗闇の中、お互いに五感を研ぎ澄ませ、
全身の感覚で相手の全てを感じ取る。
おそらく平安の世の男女の結びつきは
顔の美醜などではなく、
そしてその情交は、
限りなく感覚的であり、
限りなく動物的であり、
限りなく官能的であったのでしょう。

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さて、源氏物語第八帖「花宴」。
このあとに起こる源氏失脚の
原因となるのがこの朧月夜の君です。
なにしろ彼女は
政敵・右大臣の娘であり、
源氏を嫌う弘徽殿の女御の妹です。
さらに彼女は
東宮に嫁ぐことが決まっていました。
つまり、源氏にとっては
兄の婚約者なのです。
政敵の娘で兄の婚約者。
密通が露見すれば、
敵からも味方からも
後ろ指を指されかねない
危険な相手なのです。

でも、危険だからこそ、
源氏の恋心は燃え上がります。
そして朧月夜の君も燃え上がるのです。
政敵関係にある男女が
恋に落ちて燃え上がる。
このシチュエーションは
まさしく「ロミオとジュリエット」です。

ロミオとジュリエットの恋の行方は
悲劇で幕を閉じました。
源氏と朧月夜の恋も、
やはり良い結果には至りません。
しかし源氏は逆境に落ちても
折れることはありません。
さらに魅力にあふれた恋物語を
展開していきます。

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シェイクスピアに先駆けること600年。
紫式部はやはり
一流のストーリー・テラーなのでした。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.3.14)

enriquelopezgarreによるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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